事業承継×移住:事業承継のパイオニアは夢の途中

事業承継した江並さんみさとバトンインタビュー

移住と仕事のリアルインタビューVol.6

美郷町北郷に、酒やたばこに日用品、食料品が並ぶ「やまだ商店」という商店がありました。このお店は、約100年の歴史がありましたが、後継者がいませんでした。地域の皆さんのために、お店を残したいと考えた経営者の山田さんは、宮崎県事業承継引き継ぎ支援センターに、後継ぎを探したいと相談しました。

すると、支援センターから、後継者人材バンクに登録していた、一人の人物を紹介されました。山田さんとこの後継者候補の方は、意気投合。事業承継へ繋がり、山田さんは無事に後継ぎを得ることができたのです。

後を継がれた旧「やまだ商店」は、屋号もリニューアルし、令和4年2月、新たな船出の運びとなりました。

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今回お話を伺ったのは、その、旧「やまだ商店」の後継者で、現「商処 美郷や」(あきないどころ・みさとや)の経営者である、江並洋(えなみ ひろし)さんです。それまで美郷町には縁がなかったという江並さんですが、事業承継と同時に、美郷町へ移住してこられました。

開業から約半年。江並さんはなぜ、ゼロからの起業ではなく、事業承継という起業を選んだのか。移住して事業を進めていくことの喜びや、大変さについて話を伺いました。

起業の壁にぶつかって 事業承継は夢を叶えるための第一歩

ずらりと並ぶ酒類

――『商処美郷や』が開業して早くも半年ですが、すっかり地域に馴染んでらっしゃるようですね。

「おかげさまで。この辺では「洋(よう)ちゃん』とニックネームを頂いています(笑)」

――コロナ禍で、移住してもなかなか地域の人とのつながりが得られないという話をよく聞きますが、江並さんの場合は、商売柄、色々な人との出会いがありますね。

「名前は分からなくても世間話したり、顔見知りのお客さんはいらっしゃいますよ。お客さんはほとんどが常連さんですから。」

――江並さんはなぜ事業承継という形で起業されたのですか

「初めは、グランピングの分野で、ゼロから起業しようと思っていました。しかし、具体的に起業の計画を進めていく中で、自分に商売のノウハウ、スキル、人脈、資金がないことに気がついたんですよ。

 言わば『起業の壁』にぶつかったときに、この事業承継の話が来て。小売りは商売の原点だから、人脈や業者とのパイプを作りながら、グランピング事業に繋げていけるんじゃないかと思って事業承継を決めました」

――なるほど、夢を叶えるための基盤作りとして、事業承継をされたんですね。

前オーナーが近くにいるから、移住先でも事業をスムーズに始められた

――今でこそ、ちらほら『事業承継』という言葉を耳にしますが、江並さんが事業承継されたときには、まだほとんど事業承継が知られていない時期でしたよね。美郷町だけではなく、宮崎県内で見ても、事業承継の先駆的存在だと思うのですが。バンクに登録したのはいつですか?

「バンク登録は4、5年前だったと思います。前職での、商工会議所と何かしらの会議の中で、事業承継の取組を知りました。制度ができたばかりで、登録案件も少なかったのか、なかなかご縁がなくて。最初に頂いた話がこの話だったんですよ。長く待ったけど、まとまるまでは約半年間。トントン拍子で進んだから、支援センターの人も驚かれていましたよ。」

――経営に関する色々なことは、前オーナーの山田さんから教わったのですか?

「そうですね。仕入れ先も教えてもらいましたし、配達が必要なときは、一緒に行ってもらって道を教えてもらったり。所用があるときは店番をお願いすることもあります。今でもよくしてもらっていて、本当に良い方と事業承継が出来て良かった、と思っています。

この前は、「お盆前や正月前の繁忙期は、普段の仕入れ量では足りないから、多めに仕入れないといけないよ」って山田さんからアドバイスをもらったんだけど、そんなに売れないだろうと高を括っていつもと同じように仕入れたら、やっぱりアドバイス通りよく売れて、商品が足りなくなっちゃったってことがありました。その後は素直に、「山田さんの言う通り、もっと仕入れるべきでした」って言いいましたけど。(笑)山田さんとは、そんないい関係です。

 山田さんが近くにいるから、商売を始めることができたけど、縁もゆかりもない場所に移住して、一人だったらこの事業は難しかったと思います。」

――地域の方達にとっては、自分たちが住む地域に商店が残ったというのは、嬉しいでしょうね。

「そうですね。よく来てくれるおばあちゃんがいらっしゃるんだけど、いつもありがたい、ありがたいって言ってくれて…。僕も感激しています。」

――地域の財産として、商店は残されましたが、人口の少ない地域で小売り業を生業にするのは、やはり難しいのではないでしょうか。

「確かに小売りだけでは厳しいです。だけど、僕はこの次にやりたいと思っている事業があるから。その基盤としてはいいと思っていますけどね。」

視線の先にはいつも新事業が。目指すは美郷町内でのグランピング事業

軽トラに乗せるタイプのキャンピングカー

――次の事業とは?

「もともと夢だったグランピング事業をしたいと思っているんだけど、その前段として、軽トラックに乗せるタイプのキャンピングカーの販売を始めたところです。少しずつ軌道に乗せて、事業を拡大したいと思っています。イベントにも積極的に参加していきます。」

――夢に向かって進むエネルギーがすごいですねー。

「いやいや、無茶やってるだけ(笑)」

不便で楽しい移住ライフ 75才までは好きなことを!

――移住について教えてください。移住して困っていることはありますか?

「マックがない、スシローがないみたいな感じで、気軽にご飯食べるところがないっていうのは困りますよね。後は、土日は生鮮食品を扱っている店が休みだから。そこが不便だけど楽しいところかな。」

――不便だけど楽しい、ですか?

「ドライブに行く感覚で、日向延岡まで行けるでしょ。車を停めて川を見たり、キャンプ場に行ってみたり。そんな中で、この場所でこんなことできないかなって、事業のアイディアが沸いてきますよね。」

――江並さんは、移住して思い描いていた生活ができていますか?

「ギャップはないですよ。ただ忙しいね。仕入れ、営業、経理に自分の生活もあるし。お店に立ってると気が張ってて平気だけど、ここが終わるとやっぱり疲れを感じるときもありますよ。

だけど、全然後悔はしていないです。大きい会社だと人間関係も色々あるし、定年の65歳を過ぎたら、会社で偉ぶってても、みんなただのおっさんに戻るんだから(笑)僕は人生は75歳までと思っていて、それまでやりたいことをやるつもりです。」

目的のない移住はうまくいかない 移住判断はシビアに

日本三大備長炭の一つ、日向備長炭

――移住したい人にアドバイスはありますか?

「移住は、シビアに判断した方がいいと思います。移住はただ大自然の中で生活するというものではありません。田舎には田舎のルールあります。

例えば、僕が住んでいるところの場合は、常会と呼ばれる地区の集まりがあるし、草刈りもあるし、区費や公民館費の納入も必要です。

そんなことを知らず、夢ばかりが先行した移住者が、地区の行事にも参加せず、地域からの孤立を深めていく。結果、移住先の貸家の掃除や管理もせず、荒らすだけ荒らして他の移住先へ移り住む、そんな「無責任な移住放浪者」も、見受けられます。

ことさらに、目的のない移住はうまくいかないと感じています。

行政も、移住目的を明確にしてもらって、目的と地域が合っていれば移住してきてもらうとか、地域のルールを周知しておくことも必要だと思いますよ。

僕の場合は、そういう地域のルールも前オーナーの山田さんに教えてもらえて助かりました。やはり、何でも聞いたり、教えてもらえる人がいるのは、移住者としては心強いですね。」

地域への思いを引き継いで

「あげみ」は魚のすり身の天ぷら。宮崎県北の名産品

「どこでもいい、じゃなくて、美郷町だから移住したい、と思ってもらいたい。

だから、まずは僕のグランピング事業で美郷町を知って、感じて、移住したいと思う人が増えたら嬉しいですね。」

と話す江並さん。ご自身の夢であるグランピング事業についても着実に歩まれる一方で、そのスタート事業と位置づける「商処 美郷や」の充実にも余念がありません。

旧「やまだ商店」の品揃えに加え、美郷町と近隣市町村の名産品の販売を始められたり、前職の経験を生かして、なんと中古自動車の取り扱いも始められたほどです。

 このインタビューを通して、山田さんから江並さんへの事業承継は、単に商店が引き継がれただけではなく、熱い情熱と、地域への思いが引き継がれたのだと、感じました。江並さん、ありがとうございました。また、あげみを買いに行きますね。

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江並さんのツイッターアカウントは@misatoya2022 これから楽しいアウトドア関連の情報を発信していく予定です。

美郷町に興味がわいたら

美郷町に遊びに来たくなったら、美郷町観光協会まで。美郷町は、紅葉の名所もありますよ!

美郷町に移住したくなったら、美郷町役場政策推進室まで。空き家バンクは要チェック。

移住後の新しい仕事の形として、事業承継に興味がわいたら美郷町役場企画情報課(0982-66-3603)まで。いずれもお気軽にご相談ください!

※2022.10.26日現在、後継ぎさん募集中の事業はありません。

美郷町版事業承継バンク「みさとバトン」について

美郷町では、美郷町商工会、宮崎県事業承継・引き継ぎ支援センターと連携して『みさとバトン』として事業承継に取り組んでいます。このブログでは、美郷町への移住と、色々な仕事について発信しておりますが、その一つとして、事業承継を提案しています。

※この記事の『商処 美郷や』さんは、「みさとバトン」設置以前に承継されており、「みさとバトン」で承継された案件ではありません。

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