やりたいことをやってみる、そんなこどもえんができました

移住と仕事のリアルインタビュー

移住と仕事のリアルインタビューVol.7

この記事を書いている私、高城が美郷町へ移住を決めた理由の一つに、美郷町の豊かな自然の中で子育てをしたいと思った、という理由がありました。実際に移住してみると、街部に比べて、教育選択の面でハンデがあると感じることもあります。

しかしそれ以上に自然の中での暮らしは、木の根が育つように、子どもの、目には見えない部分を成長させてくれているように感じています。

また、美郷町では、子どもの数が少ない分、一人一人の子どもたちを大事にしようということで、町の子育て支援が充実しているのも魅力だなと思っています。

そんな中、さらに理想の子育て環境を作るために奮闘中の人がいらっしゃいます。今回は、そのおひとり、上村かおりさんにインタビューをさせていただきました。

上村かおりさんは、美郷町北郷在住。2022年4月、美郷町で初の民間運営の保育施設である、認可外保育施設『”もうひとつの”こどもえんyattara(もうひとつのこどもえん・やったら)』をスタートさせました。

私も何度か訪れていますが、保育施設というよりも、自然の暮らしの中で、大人と子どもがそれぞれの時を過ごす場所、という印象です。そんな『”もうひとつの”こどもえんyattara』を、かおりさんが始めたきっかけは何だったのか、どういう思いで日々運営されているのか、お話を伺いました。

決め手は公民館での結婚式

かおりさんは、熊本県出身で、関西で和菓子職人としての経験を積まれた後、単身で美郷町に移住していた上村洋平さんとご結婚され、2015年に美郷町北郷での暮らしをスタートされました。

――かおりさんが以前住んでいらっしゃった、熊本県山都町も自然豊かで、いいところですよね。なぜ美郷町へ移住されたのですか?

「確かに山都町も、とてもいいところです。なので、実は、結婚したときはまだ、美郷町に住むか、山都町に住むか迷っていたんです。美郷町は、場所としてはおもしろいですし、魅力的な暮らしの展開をしているので、ゲストハウスとか、民泊体験ができる施設にして、住むところは別でもいいかなと思っていました。

美郷町に住むことにしたきっかけは結婚式です。私たちは、結婚式を美郷町北郷の入下(にゅうした)公民館で挙げたんですが、その時、地区の人達が本っ当に親身になって、サポートしてくれたんです。プランニングから給仕から、そうこうするうちに、どこからかウエディングドレスまで出てきて!ありがとうございます、としか言いようがない。もうここまでしてもらったら、美郷には住みませんとは言えないですよね(笑)」

優しく、ゆるく、頼もしい美郷町の人たち

――人に魅せられて美郷町へ移住された、ということですか?

「はい。美郷の人達は、色々なことをやってくれるのに、ほどよく力が抜けて、ほどよく冗談めいていて、優しさ、頼もしさ、緩さみたいなバランス感覚が絶妙なんです。環境はもちろんだけど、美郷、特にこの入下の人達が大好きになって移住してきました。」

――美郷の人達が『頼もしくて』『ほどよく冗談めいている』っていうのは、分かる気がします。いい意味でちょっと独特の人柄かもしれないですね(笑)

大人も子どももやりたいことをやってみる、それがyattara

――かおりさんの現在のお仕事について教えてください。

「今は、認可外保育施設『”もうひとつの”こどもえんyattara』を立ち上げ、園長をしています。」

――どのような保育施設ですか。

「私が魅了されてやまない、美郷町での暮らしの味わいをまるっと詰め込んであるような、山や川、田畑、火が身近で、皆さんが思わず”懐かしい”と感じるような場で保育を行っています。

園のテーマとして掲げているのは、ちょっと長い文章なんですけど、『”豊かに暮らす”ってどんな感じ?それぞれが自分の答えを探しに くだらないことから、おもいきったことまで”あたりまえ”とか”しかたない”の枠から飛びだして やりたいことを、やりたいように、やってみるんだ』というもの。

yattaraの名前の由来も、やりたいことがあったら、やったら?というソレです。これは、実は何より私たち大人にとっても大きなテーマなんです」

――確かに、大人になるほど、やりたいことをやってみなくなりますね。やらないことの理由を探しが上手になるというか。私も思い当たる節があります…。

ここなら理想の子育てができるはず!

――かおりさんはなぜこの、こどもえん”yattara”を立ち上げようと思ったのですか。

「立ち上げようと思った、と言うよりも、必要に迫られて生まれた、という感覚です。

私は今もベースは和菓子職人にあって、子どもが生まれてからも、和菓子の仕事がやりたかったんです。だけど、子どもを見ながら、本気で仕事に没頭するのは難しいですよね。誰か、子どもとゆっくり向きあって一緒に育ててくれる人が必要でした。

そうなると、美郷町の場合は、町立の保育園にお願いするのが一般的です。だけど私は、この入下の人や場所、暮らしそのものの中に、どっぷりつかって子育てをするという理想を、こんなにも素晴らしい人、場所、素材が勢揃いしている状態を前にして、手放す気持ちにはなれなかったんです。」

これからの時代に必要とされる場所

「それじゃ、入下にこども園を作っちゃおう、きっとこれからの世の中には必要とされる場所ができるに違いない!と思いついてしまって。

資格も何も持っていなかったんだけど、こういうことをしたいと色々な人に伝えていたら、三年をかけて実現した、というところです。」

――理想を叶えてしまったわけですね。今も軸足は和菓子に?

「そうです。今やっていることは和菓子とは全然違うように見えるかもしれないけど、私の中で違和感はありません。たまたま今、子どもと関わっているけど、和菓子を作るのに必要な材料を集めている感覚です。yattaraが回り始めたら、園長職はやりたい人にパスして、私は早く和菓子をやりたいんです。その準備を着々としている段階ですね。」

思い描く風景を実現して

ハードルは理想と制度のすり合わせ

――起業にあたって大変だったことや、やりにくかったことはありますか?

「大変というより、もどかしさみたいなものを感じることはあります。特に保育に関しては、自分達がこうあったらいいのにと思い描く世界に、国の制度、町の制度をうまくすりあわせて使わないといけません。この作業は自分が思う以上に、注意深くなる必要があったり、調べ物が必要だったり、人との関係性をつないでいくのに時間がかかったり。

何でこんなに進まないんだ!と思うこともあります。だけど、うまくいかない時間も、必要な時間だとは思っています。」

――なるほど、理想と現実の制度のすりあわせは、保育だけにかかわらず、起業ではしばしばあることかもしれないですね。

子どもの育ちを目のあたりにできる喜び

――起業してよかったと思うことを教えてください。

「一つめは、起業したおかげで、素敵な人達と、仕事として、より親密に会うことができるようになったことです。プライベートの『じゃあまたね』は次がいつか予測不可能というのもままありますが、仕事の場合はその約束がより確かですよね。

それに、お互いの力を出し合って、世の中に提供できる何かが築かれていくのは、底知れぬ高揚感があります。

二つめは、4月に比べると、子ども達の自然への感性や、自発的な発想や行動力が、めきめき育っていく様子が見られることですね。

yattraでは大人が一方的に何かを与えることはしないから、初めへのうちは自分で遊びを生み出すことが難しくて『ねえ、つまらないよ』『何かしようよ』ってスタッフに言って、手持ち無沙汰にしてた子どもたちもいたのですが、今は、子どもたちの中から、遊びたいことが生まれています。それに合わせて道具を考えて使う様子も見られます。

そうなって欲しい、そうなるだろうという希望を込めて始めた“こどもえんyattara”だけど、目に見えて子ども達が育ってきているのは本当に嬉しいですね。園児も5人で始まったのですが、今は8人。来年からは9人になる予定です。」

――そうですか。また幸せな風景が広がりますね

何かを変えるのには時間がかかる。だけど着手しないのは違う

――これからyattaraはどう展開していくのでしょうか。

「一旦今は、yattaraは『こどもえん』という形を取っていますが、今後は『こどもえん』という枠に囚われず、ここに集う人達で形を変えながら、発展していくと思っています。今の時代は、田舎の持ち味やポテンシャルを生かしながら、場所に縛られずに事業を展開していくことができますよね。

具体的には、皆さんが仕方がないとか、我慢しなきゃと思っていることを解消することがビジネスになったらいいなと思います。自分のニーズからyattaraを始めたように、仕事の素って、切実なニーズにあると思うんですよ。それでお金が回るようになったら、楽しいし、居心地もよくなるし、すごくいいことだと思いませんか?」

――社会問題に取り組むみたいな感じでしょうか。大変そうですが…。

「何でも、急に変えることは難しいです。だからすぐすぐの結果を求めると苦しいかもしれませんね。とは言え、着手しないのは違う。時間がかかるけど、ゆくゆく何かと何かが交わって、変わっていくかもしれないでしょ?」

美郷町には『面白いね』って応援してくれる人がいるから

「特に美郷町は、『こういうことをしたい』って言うと、『おもしろいね』って言って応援してくれる人たちがたくさんいてくださるから、きっとますますおもしろいことになると思っています。」

にこやかにyattaraのことや、これからの展望を語るかおりさん。本当は、こどもえんの立ち上げまで何度も高い壁が立ちはだかったことを、私は知っています。だけど、柔らかく強く壁に向き合うかおりさんなら、これからも世の中を少しずつ変えていくに違いない、そう感じました。

『”もう一つの”こどもえんyattara』に興味を持ったら

『”もう一つの”こどもえんyattara』では、一時預かりや、イベントも行っています。ご興味のある方は、是非yattaraでの時間を体験してみてください。また、yattaraを応援したいという方のためにyattra基金という制度もあります。いずれも『”もう一つの”こどもえんyattara』ホームページに詳細がありますのでご確認ください。見るだけでも楽しくなるホームページですよ。

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かおりさん、ありがとうございました。これからも応援しています!

美郷町に興味がわいたら

美郷町に遊びに来たくなったら、美郷町観光協会まで。美郷町は、おいしい食べ物がたくさんありますよ!

美郷町に移住したくなったら、美郷町役場政策推進室まで。空き家バンクは要チェックです。

美郷町の子育て支援が知りたい方は、美郷町役場町民生活課または教育課まで。

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