古民家改装。ぬくもり溢れるハンドメイドのスプーン工房『木こりのSAJIYA』

ハンドメイドの木製スプーン移住と仕事のリアルインタビュー

移住と仕事のリアルインタビューVol.5

今回お話を聞いたのは、岩堀耕平さん、康子さんご夫婦。お二人は、8年前に移住してこられ、現在、美郷町北郷で、『木こりのSAJIYA』という、ハンドメイドのスプーン工房を構えていらっしゃいます。

お邪魔したのは、晩秋から冬に移り変わる11月の終わり。日差しは弱く、枯れ草がかさかさと音を立てるような日でした。古民家としっくり馴染んだ、素敵なアンティークの扉を開くと、明るく燃える薪ストーブが置かれており、ぎゅっと縮こまっていた肩と緊張がほぐれます。お部屋も、並んだ作品も、お二人の雰囲気もすべてが温かく、しばし外の寒さを忘れ、移住とお仕事の話を伺ってきました。 

数年後に長野県へ戻るつもりでお母さんの故郷へ移住

食材と木製スプーン

――岩堀さんが美郷町に移住した経緯を教えてください。

康子さん「私の母がもともと諸塚村出身なんです。数年前、祖母が体調を壊して、叔父が一人で山仕事をすることになって、それは大変だろうから、様子を見に行こうということで、諸塚村に来ました」(*諸塚村は、美郷町のお隣の村です)

耕平さん「その頃ちょうど自分も体調を壊して、環境を変えるのも悪くないと思ったのもあります。その後ご縁があり、美郷町へ移住しました。最初は、何年後とは決めていないものの、長野県に戻るつもりでいたんですけどね。」

――当時住まわれていた長野県からはずいぶん遠いですが、移住に抵抗はなかったですか?

耕平さん「遠いですね(笑)だけど、実際に移住して住んでみると本当にいいところです。特に海の方に行くと、ふるさとの静岡にも似ています。両方ともお茶の栽培が盛んだし、食べ物も似ているし、じめじめと暑い気候も似ているし、違和感なく生活できてます。」

始まりは、病床の知人のために手掛けた一本のスプーン

木製スプーンを手作りしているところ

――今のお仕事を始めたきっかけを教えてください。

耕平さん「あるとき、友達のお母さんが入院されていて、ベッドで食べる食事が味気ないって言っているという話を聞いたんです。それなら、とプレゼント用に作ったのが最初のスプーンです。斜めの姿勢でも食べやすいように、すくう部分を斜めに加工して。最初は道具もないから、小刀とか、彫刻刀で作りました。」

――今はいろいろなスプーンがありますが、どういうスプーンを作っていますか?

耕平さん「ベビースプーンや、ティースプーン、カレー用のスプーンや、木べらに茶さじなどいろいろです。」

スプーンが生み出されるまで10日間。思いを込めて丁寧に

――スプーンを作る行程を教えてください。

耕平さん「材料を板にする、乾かす、粗く形を作る、茹でる、細部まで作り込む、ヤスリをかける、塗装するという流れです。一本を作るのに、10日くらいかかります。ヤスリは3段階に分けてかける、一番時間がかかる作業ですから、妻にも作業をお願いしています」

思い出とともにあった木がスプーンに姿を変えて いつもそばに

スプーンを作る職人

――色もそれぞれ個性的ですが、どういう材料を使っていますか?

耕平さん「サクラ、カシ、クワ、クリとかですね。同じ樹種でも一つ一つ違う色になりますから、同じ物はできません。」

――美郷町はこれだけ森林に囲まれていますから、材料には困らないのではないですか?

耕平さん「そうですね。いろいろな方が、木はいらんかと声をかけてくださいます。森林とは関係ないですが、先日は廃校になった小学校の校庭の桜の木を切るから使わないかと声をかけていただきました。」

口に入れる物だからこその気遣い、木つかいとは

――思い出と一緒にあった木が、形を変えて身近にいてくれるって素敵ですね

耕平さん「そうですね。本来は廃棄される予定だった木ですから。ただ、木材は、真ん中の芯の部分は割れやすいので使いません。ですから細くても10センチ以上の太さは必要ですし、杉は柔らかいところと、堅いところの差がありすぎて作業しにくかったり、カレーの色が染みやすいというように、加工性や、使用性に向き不向きがあります。

それに、スプーンは口に入れる物なので、木自体が持つ香りや味はとても重要です。というのも、それによって、食べる時の味や香りに影響することがあるからです。ヒノキは口に入れると、ずいぶんえぐみがありますし、クスは防虫にも使われるくらいですから、香りも結構強い。特に小さいお子さんは感覚が鋭敏ですから、気を遣います。

作る行程の中で、茹でるという行程があります。これは、曲がりが出やすい小径木を材料に使うことが多いため、茹でることで、予め、後に出る曲がりを先に出してしまうという目的なのですが、アクを抜くとためいう目的もあって、これはとても大切な作業です。」

――なるほど、それは木工品の中でも、スプーンは口に入れる木工品だからこそ気を遣うところですね。

康子さん「そうです。塗装するときも、蜜蝋や、亜麻仁油など、口に入れても問題の無いものを使うなど、小さい子どもさんから大人まで、安心して使ってもらえるよう、安全性には気をつけています。」

――真心を込めて大事に作っていらっしゃるのですね。どういう用途に使われることが多いのでしょうか

康子さん「Instagramの問い合わせからのギフトが多いですね。特にベビースプーンとか、結婚祝いとか、お祝いに使われる方が多いです」

――思いを込めて大切に作られたスプーンですから、これ以上無いくらい、プレゼントにぴったりですね。

美郷町には移住者の挑戦を見守る、地域の雰囲気がある

手作りの木のスプーン

――移住先として美郷町はどうですか?

康子さん「美郷はのどかで住みやすいですよ。日向・延岡へのアクセスも良いし。古民家が好きなんですが、空き家バンクで良い物件に巡り会えて良かったです。

それに北郷は、移住者も多いから、移住者に慣れていると言うか、見守ってくれる地域の雰囲気がありますね」

――移住してきて困ったことはありますか?

康子さん「方言が分からなくて困ることがあります(笑)美郷町内でも少しずつ違いますもんね」

耕平さん「文脈で類推して話してます(笑)」

移住においては、「折り合いをつける」という考え方が重要な場面も

――移住したい方にアドバイスはありますか?

康子さん「美郷町に限らず、地方は、都会に比べると遅れていると感じる場面があります。そこが良いところでもあり、課題でもあって、慣れないといけないけど、慣れてはいけない点でもあります。そこに折り合いがつけられない方は、地方移住は難しいかもしれませんね」

――なるほど、おっしゃるとおりですね。地方移住と言っても、桃源郷ではないですから、良いところも悪いところもありますからね。理想と現実に折り合いをつけるという考え方はとても共感できます。

最後に、「美郷町に移住してきて、思い描いていた生活ができていますか?」と尋ねると、

「特に思い描いていたものはなかったので、それはないです」と康子さん。

「まだそこまでは。ただ、それに近づきたいとは思っています」と耕平さん。

ニュートラルな康子さんと、静かに情熱を湛えた耕平さんらしい答えが返ってきました。

お二人は、将来的には納屋を改装して、工房とギャラリーに、母屋をカフェにしたいという夢をお持ちです。遠く長野県から移住してくるというバイタリティをお持ちのお二人なら、きっとその夢を叶える日も遠くないんだろうなと、思った次第でした。

素敵な作品が見たい人、ほしい人はインスタグラムをチェックしてみてくださいね。お二人とも、ありがとうございました。これからも素敵な作品を作ってくださいね。

美郷町への移住に興味が沸いたら、美郷町へのホームページを、美郷町へ遊びに来てみたくなったら、美郷町観光協会のホームページをご覧ください。

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